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アーカイブス──星の降る里芦別映画学校の歴史
  星の降る里芦別映画学校の誕生から昨年までを振り返ります。  
 
星の降る里芦別映画学校を生んだ一つのエピソード

 北海道芦別に一人の青年がいた。
 大林宣彦監督の映画「さびしんぼう」を観て彼は涙し、大林監督の人間像、映画の舞台となった尾道をもっと知りたい、と思いが募る。ほどなくして彼は、一人で尾道を訪れる。北海道とはまったく異なる歴史と文化をもつまちに引き込まれ、ロケ地を歩いては映画のシーンと重ね合わせていく。映画の感動が甦り、また涙する。
 さて、彼のロケ地めぐりは終盤にさしかかり、どうしても訪れたい寺があるのだが、なかなか見つからない。やっと、多分この辺りと思われる場所で一人の老人に出会う。古くから住んでいるであろうこのお年寄りに聞けば間違いはない。彼は確信をもって目指す寺の場所を聞いた。その老人は、ちょっと面倒な場所だからいっしょに行ってあげよう、と言う。彼は老人の親切心に感謝しながら老人の歩みについていく。
 道すがら、老人はむかしばなしを語り始める。時には立ち止まって大きな身振りで、話しはどこへ行くとも知れず、彼は老人の語りに引き込まれていく。ただ、目指す寺はいったいどこやら、狭い路地を行ったり来たり、坂道を上ったり下りたり。しばらく歩いて、さすがに方向音痴の彼でも、同じ道を何度も行き来していることに気がついた。しかし彼は老人の歩みと語りを遮ろうとはしない。
 もう夕暮れになろうというころ、坂道を下りてきた中年の女性と出会う。
「あら、おじいちゃん、ここで何を?」
 老人はその婦人とふたことみこと言葉を交わした。婦人は大きくうなずいて彼の方を見てにっこり笑った。そして老人の手をとる。
「わたしもそこに行くところなの。ちょうどよかったね」。婦人はそう言うと、今下りてきたばかりの坂道を上り始めた。同時に、戸惑っている彼には「こっち」と坂の上を指さし、先を行く。ようやく合点が行った彼もつき従うと、数分もたたないうちに目指す寺の門前にきた。最初に老人と出会った四辻の角がほんの数メートル先にあった。何のことはない、最初に老人が歩き始めた方向と逆に来れば、数時間も費やすことはなかったのである。しかし彼は老人の手をとって丁寧に礼をのべ、婦人も彼に会釈すると、老人の手をとって坂道を下りていった。
 すでに寺の門は閉ざされていたが、石段に腰を下ろした彼はそこから夕日に染まる尾道水道を見やる。向島と尾道を結ぶはしけの航跡がやわらかな光を放っている。彼は老人との出会いから今までを反すうする。別れ際の老人の笑顔と手のぬくもりが今そこにあるかのように自分の手をじっと見つめる。感受性豊かな彼の心と頭の中には、さまざまな像が浮かび、焦点を捉えようとしていた。
 宝物を見つけた、と彼は思った。大林監督が言う「ふるさと孝行」が何のことかその時分かった。自分が住む芦別にもそんな宝物がきっとあるはず。そして、芦別でも大林監督による映画をつくりたい。
 数年後、彼の思いに共鳴して多くの仲間が集まった。音楽、絵画、写真、体力自慢、宴会好き、などなど、それぞれが得意な分野を生かして集まる。
 そして1993年12月、大林宣彦校長先生の「映画学校」がスタートした。

☆第1回 1993年12月1・2日
 記念すべき第1回の映画学校は「海賊流映画学校」のネーミングだった。大林宣彦監督のルーツが瀬戸内海一帯を本拠地にしていた村上水軍、いわゆる海賊だった?ことにちなんだのだが…。
 大林校長先生曰く、「せっかく星の降る里という素敵なキャッチフレーズがあるんだから、これにしましょう」。 
 「海賊流」はこれっきり使われていない。写真の学校旗は、今どこにあるのやら。
 このときは、大林校長先生の講演が主体。このほか、「ふるさとCM大賞」といって、ビデオに限らず、獅子舞や詩の朗読など、ふるさとを表現するパフォーマンスのコンテストが行われた。


☆第2回 1994年7月30・31日
「星の降る里芦別映画学校」の第一歩。
 初日はカナディアンワールドを会場にスターウオッチングやビデオ講座などが行われた。
・ゲスト 尾美としのりさん、藤谷美樹さん
・上映作品『女ざかり』
写真は2日目、市民会館でのトークショー    

 ☆第3回 1995年10月28日
この年から「ふるさとビデオ作品」を募集し、公開審査会を行う。
・ゲスト 高橋かおりさん、林泰文さん、尾道大林組の大谷治さんら
・上映作品 『あした』
・ふるさとビデオ大賞 小島肇さん(43)札幌市 「ふるさと・ひと夏のメモリーズ」
写真は、体育館での大林校長先生の「車座授業」

☆第4回 1996年8月3・4日
 初日は道の駅広場で野外ウエルカムビアパーティーを開催。2日目はゲストと来場者の対話集会などの授業。
・ゲスト 児童文学者の山中恒さん、根岸季衣さん、ベンガルさん
・上映作品 『北京的西瓜』
・ふるさとビデオ大賞 森原清さん(広島県)、堀川清則さん(大分県)、大塚鈴江さん(札幌市)、旭川工業高校放送局、加賀城匡貴さん(札幌市)の5作品で分け合いました


第5回を振り返る前に
星になった男

 尾道で、老人に道を尋ね、終日歩き回ったおかげで、「映画学校」の着想を得た青年の名は鈴木評詞という。
 「評詞さん」「評詞くん」、あるいは「ヒョージ」と皆から呼ばれ、親しまれ、彼のしなやかな感性と強い意志の元に集った市民有志が「映画学校」をつくり上げていった。
 そして、1997年の第5回開催へ向けて、「さあ、やろう」と気持ちも新たにした矢先………。
 
 1997年9月30日 鈴木評詞逝去 享年36歳

 だれもが、この事実を受け入れたくはなかった。
 どこか別の世界の出来事であってほしい、と思った。
 たいへんな悲しみとショックの大きさは計り知れない。
 「映画学校はどうなるの?」 ふと、だれかが漏らした。
 重苦しい沈黙? 否、答えは一つしかない。

☆第5回 1997年10月26日
評詞くんの死からひと月もたたないうちに、第5回の映画学校が開催された。ビデオ作品の募集は、今回は休止。
大林宣彦監督が、「完成したら一番最初に評詞くんに観てほしい」と語っていた映画『風の歌が聴きたい』が上映された。
ゲストには、この映画のモデルとなった高島良宏・久美子さん夫妻と映画で良宏さん役を演じた天宮良さんを迎えた。
大林監督が、空を見上げるようにして評詞くんに語りかける姿に会場の人が涙する。

☆第6回 1998年11月22日
映画学校開催時には、大林校長先生はじめ、ゲストのかたたちも評詞くんのお墓参りが約束事となりました。写真は、お墓参りの後、映画学校実行委員会が管理している山荘「あした」で寛ぐ大林監督夫妻とこの年のゲスト・入江若葉さん。
・上映作品 『マヌケ先生』
・この年から「ふるさとビデオ大賞」の作品時間が3分以内となりました。
・ふるさとビデオ大賞 北村一郎さん(78)岩手県・盛岡市 「ヒロシとじいちゃん」、
山荘「あした」は、芦別市内中心部を一望できる小高い山の中腹にあります。キッチン、バス、トイレ、寝具完備していますので、冬期間以外は宿泊できます。ビデオ撮影合宿などにご利用ください。

☆第7回 1999年10月9・10日
ゲストはミッキー・カーチスさん(写真中央)。ふるさとビデオ大賞公開審査会でのひとコマです。公開審査会では、ゲストの皆さんにも審査員を務めていただいています。
この年は「ふるさと 守ること 創ること 伝えること」をテーマに、小、中、高校生が参加してのフォーラムが行われました。
・ふるさとビデオ大賞 井村征爾さん(24)滋賀県大津市 「あのひと(故郷の話)」
・上映作品 『あの、夏の日~とんでろ じいちゃん』

☆第8回 2000年10月28・29日
ゲストは勝野洋さんとキャシー中島さん一家そろっての出演。キャシー中島さんは、初日だけでしたが、翌日のトークショーでは、勝野さんご一家の裏話なども披露されました。
写真は、ふるさとビデオ大賞公開審査会終了後に行われるウエルカムパーティー。パーティーでは、大林校長先生、ゲストの皆さん、ビデオ作品入賞者と芦別市民が交流し、恒例となっています。
・ふるさとビデオ大賞 木村忠志さん(76)宮城県仙台市 「友、老いて」
・上映作品 『淀川長治物語・神戸篇 サイナラ』

☆第9回 2001年10月13・14日
この年のテーマは「映画と音楽」。芦別子ども合唱団や地元ピアニストの演奏、さらに大林校長先生自らがピアノ演奏を披露しました。
・ふるさとビデオ大賞 平山直道さん(73)岩手県盛岡市 「盛岡の景観~公園と広告」
・上映作品 『さびしんぼう』


☆第10回 2002年10月26・27日
「海賊流」から数えて映画学校の記念すべき10回目。悩んだり、笑ったり、そして悲しいこともありました。長く携わってきた実行委員のそれぞれに、さまざまな思いがよぎった年でした。
上映作品は『なごり雪』。ゲストは主演の三浦友和さんと映画のモチーフとなった「なごり雪」の作者・伊勢正三さんのお二人。トークショーにコンサートと、会場は超満員となりました。
・ふるさとビデオ大賞 茶木秀子さん(38)札幌市 「たかつき2002」

エピソード2
 10回目の映画学校を無事終えた翌2003年春、大林校長先生と恭子さんご夫妻が旭川市での講演を終えての帰途、芦別に立ち寄った。大林校長先生が映画学校行事以外まったくのフリーで芦別を訪れるのは、初めてのことで、私たち実行委員会メンバーも緊張感をややほぐして、和やかに歓談させていただいた。場所は、山荘「あした」。
 その席で大林校長先生は、「10回は一つの節目であり、蓄積ではあるけれど、11回、12回、15回、20回とやれるところまで続けることに意義があります」。
 さらには、「これからは、中学生や高校生など若い人たちとの語り合いの場が欲しいね。そのうえで、大人たち、お年寄りと一緒になって、ふるさとを考えていきましょう」と、宿題をくださった。
 これはまさに、評詞くんが思い描いていた「ふるさと学校」、映画、映像文化を手段とする「ふるさと学校」への進展である。

☆第11回 2003年8月31日
他のスケジュールの関係で急きょ8月の終わりに設定された。春に大林校長先生から宿題を渡されてわずか4カ月。準備も慌しく、ふるさとビデオ大賞は休止となった。
今回のゲストは、アニメ映画監督の高畑勲さん。ゲストというより、校長先生が自ら招いた特別講師という立場である。したがって、上映映画作品は、これまで恒例だった大林宣彦監督作品ではなく、大林校長先生推薦の高畑勲監督作品『火垂るの墓』と『セロ弾きのゴーシュ』となった。
また、『火垂るの墓』上映後、地元高校生らによる討論会が行われた。テーマは「命の尊さ」。話は当然のように、戦争と平和。大林校長先生、高畑監督の戦争体験と戦争を知らない世代とで、意見が交わされた。重いテーマではあったが、大林千茱萸さんの巧みなコーディネートで和やかに進められた。

☆第12回 2004年10月23・24日
上映映画は、完成したばかりの大林宣彦監督作品『理由』。ゲストに同映画に出演の左時枝さん、峰岸徹さんを招いた。また、ふるさとビデオ大賞もこの年から日本ビクター・東京ビデオフェスティバルの協賛を得て再開する。
この年、また大林校長先生からの宿題で、「自己表現術講座」を行った。絵画、音楽、スポーツなど何でもいいから、自分が持っている得意技で自分をアピールしよう、という試み。それに対して、左さん、峰岸さん、大林校長先生らが講評していくという楽しい授業だった(写真)。
・ふるさとビデオ大賞 後藤倫代さん(34)神奈川県川崎市 「稲荷森古墳」

☆第13回 2005年11月26・27日
ゲストに立川志らく師匠、蛭子能収さんを招き、落語、俳句会、トークショーと濃密な授業が行われた。上映映画は、立川志らく監督作品の『SF小町』と大林宣彦監督作品『まほろば』の2本。
写真は、ふるさとビデオ大賞授賞式の様子。大林校長先生は、授賞式を単なるセレモニーとせず「授賞式も立派な授業の一つ」とおっしゃる。ビデオ作品の講評を蛭子さんが漫画で表現すれば、志らく師匠が一口噺で締める、といった具合の楽しい授賞式、いや、授業でした。
・ふるさとビデオ大賞 有沢準一さん(68)北海道留萌市 「一本曲げかんじき」(同作品は、東京ビデオフェスティバル2006でも優秀賞に輝きました)

☆第14回 2006年12月16・17日
大林宣彦監督の映画制作スケジュールの合間を縫っての慌しい中での開催となりましたが、完成したばかりの『22才の別れ~Lycoris 葉見ず花見ず物語』を全国公開に先駆けて上映しました。ゲストには、同映画主演の筧利夫さん、鈴木聖奈さん、中村美鈴さんが駆けつけてくださいました。また、芦別市郊外の新城町で「ふるさと出前授業」を行い、地元の皆さんと交流しました。
ふるさとビデオ大賞は、砂川高等学校放送局制作の「ヤリキレナイ物語~2006」が、会場参加者投票の星の降る里芦別賞とダブル受賞しました。


☆第15回 2007年11月10・11日
上映作品は『転校生 さよならあなた』。ゲストには同映画に出演の蓮佛美沙子さん、窪塚俊介さ ん、さらには、長門裕之さんをお迎えしました。今年は、「ふるさと出前授業」を緑幸研修センターで行い、芦別健夏山笠のビデオを見ながら地元の皆さんと交流しました。また、トークショーでは、芦別高校演劇部の生徒の皆さんがステージ上に参加し、長門裕之さんが役者魂を伝授する場面も見られました。
ふるさとビデオ大賞は、千歳市・斉藤仁志さん制作の「母の好きだった『宝引き(ホービキ)』」が、星の降る里芦別賞とダブル受賞しました。

☆第16回 2008年11月15・16日
上映作品は、芦別近辺が舞台の小説「カシオペアの丘で」を執筆した重松清氏原作で、道内では初公開の『その日のまえに』。ゲストには同映画に出演の南原清隆さん、村田雄浩さんをお迎えしました。前月10月には、同映画で主人公の祖父役を演じ、大林監督作品には欠かせない存在だった峰岸徹さんが亡くなり、開催直前の訃報となりました。またトークショーでは、南原さん村田さんの息の合った会話が会場の笑いを誘いました。今年はプログラム最後に、映画フォーラム「芦別映画を創る」と題して、芦別市民や来場者がゲストと共に映画製作の夢や心構えを語りあいました。
ふるさとビデオ大賞は、広島県呉市・岩下善二さん制作の「ブナはわが母」が受賞しました。

☆第17回 2009年11月7・8日
上映作品は1988年公開の名作『異人たちとの夏』。ゲストには同映画に出演した片岡鶴太郎さん、大林監督作品『なごり雪』に出演した細山田隆人さん、そして劇団「弘前劇場」を主宰する劇作家の長谷川孝治さんをお迎えしました。トークショーでは、同映画で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞した片岡さんが監督との思い出や裏話を語ったり、時折ものまねを披露して会場を沸かせました。また大林監督は、芦別を舞台にした映画作りの脚本を長谷川さんが担当し、2011年に映画製作を、2012年の第20回芦別映画学校での公開を目指すことを発表しました。
ふるさとビデオ大賞は、旭川市・大井貴之さん制作の「栄子~70歳~」が星の降る里芦別賞とダブル受賞し、都合により欠席した大井さんの代わりに母・栄子さんが二つの賞を受取りました。
 
     
 
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